新しいSatoshi Nakamoto現る!! その名はAmaury Sechet その真意は?

ビットコインの発案者 Satoshi Nakamoto

仮想通貨にかかわってる方はよく知ってる名前です。
でも、誰かはいまだに定かではない…

何人かが候補として話題に上り、自分から名乗り出た人もいましたが、いまだに確定していません。

ところが2月に入って、「Satoshiは俺だ!!」と名乗り出たひとが出てきました。
こういう話…  大好きです!!

新たなSatoshiの登場

それは2月8日、突然のtweetから始まりました。

そして続けざまに以下のtweet

彼が提示した証拠は?

Deadal Nixというアカウントの持ち主は、この2つのtweetで

私がSatoshi Nakamotoだ!!

と主張し、証拠としてECDSAの署名値とハッシュを提示しました。

※ ECDSAは楕円曲線Digital Signature Algorithmのこと。楕円曲線上の離散対数問題を基本にした署名方式。

そしてハッシュのもとになるメッセージは、

もうすぐ明らかにする…

 

この署名とハッシュは、ビットコインのブロックチェーンの最初のブロック = Genesis Blockのコインの送金先の公開鍵で検証できるものでした。
そして、この公開鍵はSatoshi Nakamotoのものと信じられています。

この公開鍵で検証可能な署名を作ることができるのは、対応する秘密鍵を持つものだけのはず…
つまりSatoshi Nakamoto本人だけが署名を作ることができる。

Satoshiの公開鍵で検証可能なハッシュと署名を提示できる私こそが、Satoshi Nakamotoだ!!

という主張のtweetだったのです。

新しいSatoshiの名前は、Amaury Sechet

このtweetのアカウント「Deadal Nix」の持ち主は、Amaury Sechetさん。
Bitcoin ABC開発の主要人物です。

Bitcoin ABCの開発者 Amaury Sechet氏 

Bitcoin ABCの開発者 Amaury Sechet氏 https://bitsonline.com/より参照

Bitcoin ABCと言えば、やはりSatoshiを自称している有名人Craig WrightさんのBitcoin SV側とは、ビットコインキャッシュのハードフォークでいろいろもめた間柄…
なかなか面白い展開になりそうな…

※ 2018年11月のビットコインキャッシュのハードフォークにかかわるもろもろと、Craigさんの活躍は、以下にまとめています。

ビットコインキャッシュハードフォーク BTCABC vs BTCSVその後どうなった? そして私のBCHは…

予想通り、間髪入れずにCraig Wrightさんからtweetです。

ビットコインの基本もわかってない
どうかそのまま落ちて行ってくれ

って言ってディスってます。

Craigさんらしい…
友達にはなれないけど、外野から見てる分には飽きない人です。

Amaury Sechetさんは、自分をSatoshiだと証明できたのか?

さて、このSechetさんのtweetを見て、多くの人は、
「なるほど、確かにハッシュに対する署名の検証には成功する。AmauryがSatoshiだ。」
と、納得したのでしょうか?

どうもそうではなかったようです。

怪しい…

とか

Jokeじゃないの…

という反応が大勢でした。

なぜSechetさんの証拠は納得されない?

Satoshiの公開鍵で検証できる署名とハッシュ…
一見ちゃんとした証拠のように見えますが、どうして納得されないのでしょう?

決定的なの原因は、ハッシュのもととなったメッセージを公開していないことです。

このあたり、公開鍵暗号における署名とその検証の枠組みから見ていきましょう。

下図は、公開鍵を使った署名の概要を、数式が出てこない範囲で概観した図です。

公開鍵暗号を使った署名の概要

公開鍵暗号を使った署名の概要

署名は、公開鍵暗号を使ったシステムですので、最初に公開鍵と秘密鍵のペアが作られます。

秘密鍵署名の作成者のみが秘密に持ち、署名の作成に使用します。

公開鍵署名の検証に使用します。検証を行うすべての人に公開されます。

署名は、対象となるメッセージに対して秘密鍵を利用して作成されます。
その手順は以下の通り。

署名の手順

  1. ハッシュアルゴリズムを使って、署名対象のメッセージからハッシュを作成
  2. 秘密鍵を使って、ハッシュに対する署名を作成
  3. 署名対象のメッセージと署名を、検証者に対して公開

署名の検証は、メッセージに対する署名が、まさに署名者によって行われたことを検証する行為です。
その手順は以下の通り。

署名検証の手順

  1. ハッシュアルゴリズムを使って、署名対象のメッセージからハッシュを作成
  2. 公開鍵を使って、ハッシュと署名の組み合わせの正しさを検証

ビットコインで使用されているECDSAも、基本的にこの枠組みの署名方式です。

そしてECDSAは、

秘密鍵を持たない人でも、検証に成功するハッシュと署名のペアは簡単に作成できる

という特性があります。
署名対象のメッセージのことを考えなければ、検証に成功するハッシュと署名は作ることができるのです。

でも、ハッシュアルゴリズムの特性として、メッセージからハッシュを作るのは容易ですが、その逆は困難。
検証に成功するハッシュと署名のペアができても、そのハッシュに対応するメッセージが作れない。

その結果

検証に成功するメッセージと署名のペアを作成することは困難

ということになります。

だからハッシュと署名を提示しても証拠にならない。
ハッシュのもとになったメッセージを出さないと、暗号技術の近辺にいる人々は、まともな話とはみなさないのです。

ではSechetさんはどうすればよかった?

今回の件で言えば、例えば

「Amaury Sechet is Satoshi Nakamoto.」

というメッセージに対して、Satoshiの公開鍵で検証可能な署名を提示すれば、信頼性はぐっと増します。
少なくとも、署名を作成した人がSatoshiであることを疑う人はいなくなるでしょう。

それでもまだ、

以前にSatoshiが作成した署名を、Sechetさんがコピペしただけじゃないのか?

とか、

SechetさんとSatoshiは別人だが知り合いで、署名の作成をSechetさんがSatoshiに依頼しているんじゃないか?

とか、
いろんな別の可能性は残りますが、少なくとも議論は大きく進むのです。

でも、そんなことSechetさんは分かってると思うんですけどねえ…
Satoshiの秘密鍵を持っているならどんなメッセージにも署名することは簡単。
なんの苦労もいらないはず。

だから、

怪しい…

とか

Jokeじゃないの?

という反応になるのでした。

そして結末は?

2月12日になって、この件に関するSechetさんの発言が入ってきました。

結局はSechetさんのJoke?

この記事の中で、彼はこう言っています。

It was a demonstration of what other scammers have done.
It takes the wind out of their sails.
Craig Wright, others before him. Others will do it after.”

雰囲気で訳すと…

他の詐欺師たちがしたことをデモンストレーションしただけ。
これで彼らの勢いをそぐことができる。
Craig Wright、彼以前、そしてこれから出てくる詐欺師たちの…

この記事が正しければ、この件はSechetさんの確信犯
Jokeと、警告と、Craig WriteさんをはじめとするSatoshiを名乗る人たちへの揶揄を含んだ行動だったようです。

暗号技術は詐欺が横行しやすいの注意!!

今回の件は、暗号技術の特性を浮き彫りにした一件でした。

暗号は、数学とプログラミングが絡まった複雑で微妙な分野です。
アマチュアとプロフェッショナルの差が、アマチュア側が思っているより実はずっと大きい。
そのくせ人は暗号技術と隣合わせで生きていくことが不可欠。
その結果として、プロが善良なアマチュアをだますのがとても簡単な領域となっています。
典型的な例がSatoshiネタ。

このあたりについては、ビットコインの開発者のMaxwellさんの以下のコメントでも、触れられています。

Unfortunately, given the public’s limited of understanding of cryptography this is apparently an easy fraud to pull off.

The key trick is that non-technical people are prone to believe things that just sound jargony enough and that technical people tend to think they know a lot more than they actually do– and so they’re easily sent off into the weeds.

これまた雰囲気で訳すと…

不幸なことに、一般の人々の暗号技術に対する理解は限られており、だますのはとても簡単。

文系の人は、十分慣れ親しんだものを信じる傾向にあり、
理系の人は、実際よりも自分が多くのことを知っていると思う傾向にある。
これがこのトリックの鍵です。

なんにせよ、まだSatoshi Nakamotoの謎は解けていません。

個人的には、このまま解けずにおとぎ話か神話になってくれるといいな、と思っています。