ビットコインのサイドチェーンLiquid Networkローンチ その特徴と技術を解説

2018年10月10日、カリフォルニアのBlockstream社から、

ビットコイン初のサイドチェーンLiquid Networkローンチ

の発表がありました。
Blockstream社は、サイドチェーンのアイデアの提唱者です。

すでに、Bitfinex、BitMEX、OKCoin等大手を含む23社の仮想通貨領域のプレーヤーが参加しており、注目度が高まっています。
国内の仮想通貨取引所の、BitbankやZaifも名を連ねています。

今日はLiquid Networkの目的や特徴についての解説です。

サイドチェーンって何?

サイドチェーンは、メインのブロックチェーンに別のブロックチェーンをつなげて、メインのブロックチェーンの機能や性能を補完・拡張する技術をいいます。

オリジナルのアイデアは、2014年にBlockstream社から発行されたホワイトペーパーです。

参考 Enabling BlockChain Innovations with Pegged SidechainsBlockstream

同社が今回発表したLiquid Networkは、ビットコインのブロックチェーンをメインチェーンとして上記のアイデアを具現化したものです。

なぜサイドチェーンが必要?

サイドチェーンが必要な理由を4つ述べましょう。

理由1:処理性能の向上

ビットコインの大きな問題点の一つに、トランザクションの処理性能の低さがあります。
また、その処理性能の低さに対して、膨大な電力を消費してしまうエネルギー効率の悪さも深刻です。

この問題は、ビットコインのコンセンサスアルゴリズムであるProof of Workによります。

Proof of Workは、マイニング報酬を目指して、世界中のマイナーが、競争でマイニングする仕組みです。
トランザクションの履歴を、ブロックチェーン上に安全に残すための作業ですが、理不尽なまでに非効率。
小さめの国家一国の消費量に匹敵する電力量を消費しながら、処理できるトランザクションは限られ、その結果として、決済の遅延や取引手数料の高騰を引き起こします。

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サイドチェーンでは、トランザクションはサイドチェーン上で行います。

メインのブロックチェーン上にトランザクション履歴は残りませんので、トランザクションの処理能力は、メインチェーンの仕組みとは無関係です。
サイドチェーンがメインチェーンとは異なる効率のよいコンセンサスアルゴリズムを採用するならば、トランザクションの処理能力も向上します。

メインチェーンがビットコインなら、ビットコインのProof of Workの非効率性に縛られずに、トランザクションを実行することができます。

理由2:セキュリティリスクの低減

仮想通貨の仕組みは、さまざまなセキュリティリスクにさらされた状態で稼働しています。

例えば、取引所やサービスの運営者は、常にハッキングのリスクを恐れます。

ウオレット等のアプリケーションや、サービスのための各種システムは、そのプログラムの中に潜むバグや脆弱性がいつ発見され、悪用されるかわかりません。
前提としている暗号技術そのものの脆弱性も、潜在的なリスクです。

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複数の大手マイナーが結託するなど、コンセンサスアルゴリズムが依って立つ、安全性のための前提が崩れるかもしれません。

仮想通貨に、完璧に安全な仕組みはない。
リスクが顕在化して、システム全体が危機に陥る可能性は、常に存在する。

と考えるのが妥当です。

サイドチェーンは、セキュリティ上のリスクそのものをなくすことはできませんが、その脅威の程度を低減することができます。

サイドチェーン上で大きな問題が起こった場合、サイドチェーンをメインのチェーンから切り離します。
サイドチェーンで起こった問題が、メインのチェーンに影響し、メインチェーンそのものも破壊してしまうことを防ぐことができます。

理由3:新機能の追加・拡張

ビットコインは、ネットワークシステムとしても、社会への定着度の面からももっとも安定した仮想通貨ですが、機能的な面からは、どうしても後発のプロジェクトに見劣りします。

多くの通貨がスマートコントラクトをサポートしていますが、ビットコインにはありません。
ブロックチェーン上の分散型アプリケーション(=DApps)も作れませんし、ビットコインとは別のトークンを作る機能もありません。

サイドチェーンは、これらの機能をビットコインの仕組みに持ち込むことを可能にします。
新たな機能はサイドチェーンで行うことで、メインチェーンであるビットコインそのものには変更を加えることなく、機能を追加することができます。

理由4:ネットワーク全体の安定性と柔軟性の両立

仮想通貨プロジェクトがメジャーになるほど、そこで野心的なアイデアを試すことは困難です。
ビットコインは、その最たる例です。

ビットコインは時価総額12兆円以上(2018年10月時点)、ビッグビジネスの戦場です。
多様な考えを持つ多様な利害関係者が交錯したバランスの上に成り立っています。
そこで、ビットコインの機能や性能の改変を合意することは、とても難しい。

合意には長い時間がかかり、多くのアイデアが実現されないまま放置されます。
時には、改変方針をめぐる軋轢により、プロジェクトや通貨の分裂という結果を招きます。

サイドチェーンは、メインチェーンとつながりつつ、新たなアイデアを試すことができる仕組みです。
その結果として、メインチェーンそのものへの変更は限定されます。

メインチェーンであるビットコインの安定した基盤はそのままに、様々なアイデアを試すことができる柔軟なシステムを構築することができます。

Liquid Networkの特徴

Liquid Networkは、ビットコイン上で行われている取引を、より効率的に行うことを目的として作られたサイドチェーンです。

その特徴と技術的なポイントを、Blockstreamが発行しているホワイトペーパーをもとに説明します。
今回参考にしたホワイトペーパーは以下です。

参考 Enabling BlockChain Innovations with Pegged SidechainsBlockstream 参考 Strong Federations: An Interoperable Blockchain Solution to Centralized Third Party RisksBlockstream

※ 実際にLiquid Networkで採用されている技術と、ホワイトペーパーの記載とは異なる可能性があります。

双方向ペグ BTC ⇔ Liquid Bitcoin(L-BTC)

BTCに関するさまざまな取引をサイドチェーンであるLiquid Network上で行うためには、BTCそのものをメインのブロックチェーンのネットワークからLiquid Network上に移動させる必要があります。

ですが、現在のビットコインの仕組みの中に、BTCをサイドチェーンのネットワーク上に取り出す仕組みはありません。

この矛盾を解決するために、Liquid Networkは、Liquid Network上でのBTCの代替通貨として、Liquid Bitcoin(L-BTC)を作りました。

L-BTCは、Liquid Network上で使われます。
BTCとは、1BTC = 1L-BTCのレートで、双方向にペグされています。

BTCを、ビットコインのネットワークからLiquid Network上に移動させると、同額のL-BTCになります。
逆にLiquid Network上のL-BTCをビットコインのネットワークに移動させると、同額のBTCとなります。

ビットコインのメインのチェーンと、そのサイドチェーンであるLiquid Networkは、BTCとL-BTCの双方向ペグによってつながっています。

BTCの取引をLiquid Network上で行う場合、典型的には以下の手順をとります。

  • STEP.1
    BTCをLiquid Network上に移動
    取引に必要なBTCを、Liquid Network上に移動します。
    その結果、同額のL-BTCがLiquid Network上に解放されます。

    この移動のために、ビットコインのネットワーク上には特別なアドレスが用意されています。
    そのアドレスにBTCを送ると、そのBTCはロックされ、使用できなくなります。
    そして同額のL-BTCがLiquid Network上に解放されます。

  • STEP.2
    Liquid Network上でL-BTCによる取引
    L-BTCを使って、Liquid Network上で取引を実行します。

    Liquid Network上では、後述のように、ビットコインのメインチェーンとは異なるコンセンサスアルゴリズムを採用しています。
    短時間かつ低コストで取引を行うことが可能です。

  • STEP.3
    L-BTCをビットコインのメインネットワークに移動
    L-BTCを使ったLiquid Network上での取引が終了したら、L-BTCをビットコインのメインのネットワーク上に移動します。
    その結果、同額のBTCがビットコインのネットワーク上に解放されます。

    この移動のために、Liquid Network上には特別なアドレスが用意されています。

双方向ペグのために、BTCをロックする特別のアドレスを用意するといったアイデアは、あるコインを消滅させて別のコインを得るProof of Burnに非常に近いものです。
双方向にProof of Burnを行うことで、双方向のペグを実現しているといった感じですね。

また、Liquid Network上での取引の詳細は、ビットコインのブロックチェーンには記載されない点も重要なポイントです。
Liquid Networkは、より匿名性の高い取引を特徴としていますので、匿名性を重視する利用者にとっては、資産をLiquid Network上に移しての取引は、有益な選択肢になります。

コンセンサスアルゴリズム Federated Blocksigning

Liquid Networkのコンセンサスアルゴリズムは、Proof of Workではありません。
選ばれた少数の承認者による署名によります。

ホワイトペーパーの中では、この方式をFederated Blocksigningと呼んでいます。

予めLiquid Network内の複数の承認者を決めておきます。
彼らが、秘密鍵を分散して所持しており、ブロックに対して署名を行います。
いわゆるマルチシグのような方式で、所定数以上の承認者が署名を行えば、有効なブロックとして認められます。

ブロックの承認の参加者は少数で、かつ、PoWのような確率的な作業により承認に多大な時間とエネルギーを費やす必要はありません。

トランザクションの処理性能は格段に向上します。
使用する電力量もビットコインのメインネットワークとは比較にならないぐらい少なくなり、ブロック承認の損益分岐点は圧倒的に下がります。
その結果、トランザクションにかかる手数料が大きく下がることになります。

承認者間の結託の危険性、承認者に対する攻撃や事故によるシステムの破壊の危険性を排除するために、承認者は、利害関係上、あるいは地理的条件も異なっている人々であることが重要となります。

Blockstream社のリリースに、

23社の仮想通貨ビジネスのプレーヤーがLiquid Networkに参加する

と発表されていますが、この参加者のいくつかはLiquid Networkの承認者として活動するのではないでしょうか。

ただ、Federated Blocksigningのような、少数者に頼ったやり方は、Satoshi Nakamotoが夢想していた、

信頼しなければならない存在のない世界

とは相いれないと思えます。

しかし、これは致し方ないのかもしれません。

ビットコインのPoWでもマイナーの寡占化は進んでおり、ハッシュパワーは上位3社で50%を超えます。

この状況比べれば、注意深く選ばれた、相互にけん制しあう少数者に頼るほうが、安全性は高いのかもしれません。

Liquid Networkの将来性

トランザクション処理性能や、エネルギー効率の悪さなど、ビットコインのメインネットワークが抱える問題は深刻です。
放置しておけばビットコイン自体がどんどん時代遅れになっていく。
そういう感じが強くありました。

その中で、Liquid Networkのローンチは良いニュースです。
すでに、20社以上のプレーヤーも取り込んでおり、本格的なサイドチェーンがやっと出てきた、という印象です。

これから、Liquid Networkの本格的な利用に移っていくうちに、新たな課題が出現しては、混乱と収束を繰り返すでしょう。
他のサイドチェーンも次々に出現して、混とんとした状態が数年続くと思われます。

でも、サイドチェーンである限り、ビットコインのメインネットワークへの影響は限定されます。
メインネットワー自体は保護されつつ、サイドチェーンを含む全体としては、より高効率で多用な機能を含むものに成長していくことでしょう。